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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)365号 判決

一 請求原因1、2の事実、同3のうち被告の従業員就業規則、被告規程及び同旧規程に原告主張の規定が存在することは、当事者間に争いがない。

二 原告は、復元補償を定めた被告規程一二条(「次の各号のいずれかに該当するときは発明者の請求により審査のうえその発明者に当該発明に関する権利を譲渡する。」)三号(「会社が権利を維持する必要がないと認めたとき」)には被告旧規程一一条二号の事由(「会社が正当な理由なくして五年以上実施又は運用をしないとき」)を含むものと解すべき旨主張する。

しかし、原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証の一によれば、被告旧規程は、昭和五一年四月一日から施行された被告規程二四条により右施行日をもつて廃止されたことが認められ、現行の被告規程一二条について原告主張のように解しなければならない根拠はない。

もつとも、原告は、新たな就業規則の作成又は変更によつて労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは原則として許されない旨主張する。

しかし、前記争いのない事実によれば、職務発明について定めた被告規程及び同旧規程はいずれも被告の従業員就業規則四一条に基づくものであるところ、復元補償に関する被告旧規程一一条は「次の各号の一に該当するときは、発明者の請求により審査の上その発明者に当該工業所有権を譲渡するか、又は実施許諾等権利の復元による補償を行なう。(1)会社が権利を維持する必要がないと認めたとき、(2)会社が正当な理由なくして五年以上実施又は運用をしないとき」と定められていたものであり、一方現行の被告規程一二条は「次の各号のいずれかに該当するときは発明者の請求により審査のうえその発明者に当該発明に関する権利を譲渡する。(1)会社が出願の必要を認めないとき、(2)会社が審査請求しないと決定したとき、(3)会社が権利を維持する必要がないと認めたとき」というものであり、両者を比較すると、被告旧規程一一条二号の「会社が正当な理由なくして五年以上実施又は運用をしないとき」という復元補償の事由は被告規程一二条ではなくなつているが、被告旧規程においても「五年以上実施又は運用をしないとき」に当然復元補償がなされるものではなかつたことはその規定から明らかであるし、被告規程一二条の規定内容をみても、被告旧規程によつて認められていた復元補償に関する従業者の既得の権利を奪うような性質のものとはいい難い。その他、被告旧規程から被告規程への改正につき、その効力に疑問を抱かせるような事情も見出せない。

したがつて、原告の右主張は採用できない。

三 本件発明につき特許出願公開がなされてから既に六年以上被告が本件発明を実施又は運用していないことは、当事者間に争いがない。

しかし、被告規程一二条に照らせば、右のような事情が存在するからといつてただちに同条所定の復元補償の事由に該当するものではない。しかも、そもそも被告規程一二条は、その各号に該当するときは「発明者の請求により審査のうえその発明者に当該発明に関する権利を譲渡する。」と定めているのであり、右各号所定の事由が存在する場合には、従業者からの請求があれば、被告は審査して権利を譲渡する義務があるものというべきであるが、従業者の一方的意思表示によつてただちに権利譲渡の効力が生じることを定めたものとは解し難い(この点は、被告旧規程についても同様である。)。したがつて、この点からみても、原告が主張するような、被告に対する一方的意思表示によつて本件発明につき特許を受ける権利及び米国特許権を譲り受ける権利を有するものと認めることはできない。

四 以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却する(なお、本件訴訟は確認の利益の点に問題がないわけではないが、以上のとおり請求が理由のないことが明らかであるから、確認の利益の点について立入つて検討することはしない。)。

訴訟費用は原告の負担とする。

〔編註〕 本件における事実関係は左のとおりである。

第一 当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 原告が被告に対する一方的意思表示によつて左記の特許を受ける権利及び米国特許権を譲り受ける権利を有することを確認する。

特開昭五四―一三九七二七号(特願昭五三―四七九八〇号)

(発明の名称) レンズ交換可能なカメラの自動焦点調節装置

米国特許第四二七四七二〇号

(発明の名称) 撮影レンズが交換可能なカメラのための自動焦点制御装置

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二 当事者の主張

一 請求原因

1 原告は、昭和五八年一一月一五日付で退職するまで被告の従業者であつたところ、被告の従業者であつた当時、職務発明として請求の趣旨記載の発明(以下「本件発明」という)をなし、その特許を受ける権利を被告に譲渡した。

2 被告は、本件発明につき我が国及び米国において特許出願を行ない、請求の趣旨記載のとおり、前者につき昭和五四年一〇月三〇日出願公開され、後者については昭和五六年六月二三日登録された。

3 被告の従業員就業規則四一条は「従業員がその業務範囲に属する発明または考案をし特許を出願する場合は、別に定める発明考案取扱規程による。」と定め、昭和五一年四月一日から施行された被告発明考案取扱規程(以下「被告規程」という)一二条本文は、復元補償について次のとおり規定している。

「次の各号のいずれかに該当するときは発明者の請求により審査のうえその発明者に当該発明に関する権利を譲渡する。

(1) 会社が出願の必要を認めないとき

(2) 会社が審査請求しないと決定したとき

(3) 会社が権利を維持する必要がないと認めたとき」

ところで、右施行前に行なわれていた旧発明考案取扱規程(以下「被告旧規程」という)一一条は、復元補償について次のとおり定めていた。

「次の各号の一に該当するときは、発明者の請求により審査の上その発明者に当該工業所有権を譲渡するか、又は実施許諾等権利の復元による補償を行なう。

(1) 会社が権利を維持する必要がないと認めたとき

(2) 会社が正当な理由なくして五年以上実施又は運用をしないとき。」

新たな就業規則の作成又は変更によつて労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは原則として許されないと解すべきところ、復元補償も労働条件の一であるから、被告規程が合法的であるとされるためには、同規程一二条三号には被告旧規程の復元補償の事由である「会社が正当な理由なくして五年以上実施又は運用をしないとき」を含むものと解すべきである。

4 本件発明につき我が国で出願公開がなされてから既に六年以上経過したが、被告は本件発明を実施又は運用していない。

5 よつて、原告は、原告が被告に対する一方的意思表示によつて請求の趣旨記載の特許を受ける権利及び米国特許権を譲り受ける権利を有することの確認を求める。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1、2の事実は認める。

2 同3のうち、被告の従業員就業規則、被告規程及び被告旧規程に原告主張の規定が存在することは認めるが、その余は争う。

復元補償に関する規程は労働条件を定めたものとはいえない。また、被告規程における復元補償の条項(一二条)は被告旧規程における復元補償と比較しても、それ自体十分に合理性を有する。被告旧規程は、被告規程二四条の定めにより昭和五一年四月一日をもつて全部廃止されたものである。

さらに、被告旧規程一一条の定める復元補償は、本件発明のごとくいまだ出願中の特許を受ける権利については適用がないし、原告が主張するように一方的意思表示による復元契約の締結権を認めたものでもない。

3 同4の事実は認める。

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